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Lee-Byung-hun addicted

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第6話

『穀雨』 第六話


その晩、ビョンホン宅では家族とごく親しい友人だけのささやかな祝賀会が行われた。
「ヒョン、おめでとう。良かったね。すごいじゃないか。興行成績悪かったのに。」
彰介は片手にワイングラスもう一方の手にはボトルを持ってビョンホンに近づいてきた。
「お前さぁ~。こういうおめでたい席でそういうこと言うか?」ビョンホンはふてくされながらも笑って言った。
「ジウン監督もなんか言ってやってくださいよ。」
「えっ、事実だからいいんじゃない?あ、このチョコレートムース美味いよ。」
ジウン監督はテーブルにデザートとして並べられた様々なケーキの中からチョコレートムースを選ぶと実に美味しそうに口に運んだ。
「監督ほど見かけと実像がアンバランスな人も珍しいよね。」と彰介はジウン監督を見つめながら言った。
「うん。でもよく知ると絶妙なバランスで生きてるんだよ。監督は。」ビョンホンはそういって満足そうに笑った。
聞こえてるのか聞こえないのか隣でジウン監督は黙々とケーキを食べていた。
「へ~~~ぇ。やっぱヒョンの周りの人は面白いね。」と彰介。
「ああ、お前も含めてな。」ビョンホンはそういうと彰介を小突いた。
「そういえば揺、アフリカのブ・・・なんとかって国に行くんだって。いくら仕事もお金もないからってそんなところまで行かなくたっていいのに。やっぱあいつも変わってるよなぁ」いつのまにか彰介は監督にケーキを勧められ口にしていた。
「何、揺ちゃんアフリカに行くの?」と監督。
「そうなんですよ。あいつ去年から少しずつ仕事量減らすっていうもんだから他に翻訳の仕事持って行かれちゃって。今、事実上無職なんですよ。あいつの実力なら真面目に続ければすぐ元の量くらいの仕事は来ると思うんですけど、今のあいつはほら『あれ』だから。だからお金もなくって。ソウルに来るのにおじさんにお金借りたらしいですよ。でね。いっそのことヒョンもいないならお金がかからないボランティアの仕事に行こうと思ったみたいで。」
「『あれ』って何だよ」とビョンホン。
「お前、察しが悪いなぁ~相変わらず。つまりだ。お前に合わせたいからタイトな仕事は受けないってことだろ?」
「ジウン監督さすがですね。ヒョンはそういう『人の心の機微』みたいのにちょっと疎いよね。」
「うるさいな。お前にだけは言われたくないね。」ビョンホンはふてくされて言った。
(全く、揺の奴、そんなことになってるのに何も言わないなんて)
ビョンホンは事情を一言も口にしなかった揺のことを怒っていた。そしてブツブツ言いながら部屋の中を歩き回り始めた。
「あ~あ、知~~らない。」とジウン監督。
「えっ、何がですか?」と彰介。
「ほんと、お前さん、鈍いよねぇ~。さあ、これからどうなるかなぁ~」ジウン監督は新しいケーキに手を伸ばすとビョンホンの行方を目で追った。

部屋を歩き回っていたビョンホンはウナと楽しそうに話す揺を見つけると腕を引っ張って庭に連れ出した。
「何、急にビョンホンssiそんな怖い顔して。」揺は笑いながら言った。
「揺、何で俺に黙ってたんだよ。仕事無くなったこと。」
「やだぁ~人聞きが悪い。たまたま途切れただけよ。ただそれだけ。」
「でも、原因は俺のために仕事減らしたからなんだろ」
「そんなことないって。誰がそんなこと言ったのよ。私は私が減らしたいから減らしたの。だからあなたのせいなんかじゃないから。あなたが気にすることなんて何もないの。」
「じゃあ、俺が知り合いに頼んで仕事紹介してやるよ。お金のことだって一言言ってくれればいいのに。飛行機のチケットだって買って送ったし。他にかかるお金だって何とでもするのに」ビョンホンは少し興奮気味に言った。
「ビョンホンssi、本当にそんなこと考えてるの?」
「だって、揺困ってるんだろ。何で助けちゃいけないんだよ。それでも口を出されるのが嫌だっていうなら今すぐやっぱり結婚しよう。そうすれば仕事だって好きな仕事だけ選んですればいいし、お金の心配だってしなくてよくなるじゃないか。」
「何かその考え方好きじゃない。仕事がないのもお金がないのも私の問題であなたには関係ないでしょ。あなたが思い煩うことはないの。」揺は明らかに不機嫌な様子で言った。
「関係ないってどういうことだよ。揺の問題は僕の問題でもあるんだ。何で助けちゃいけないんだよ。何で心配したらダメなんだよ。全然わからないよ。じゃあ、君が困ってるのを知っていて黙ってほおっておけって言うのかよ。」興奮気味に話すビョンホン。
「そう。ほっておいて。私は一応立派な大人なんだから自分の面倒は自分でみますから。」
「じゃあ、何?ソウルに来るお金お父さんに出してもらったんだろ。お父さんはよくて僕はだめなのか?変だよ。そんなの」
「あのお金は・・仕方なく借りたのよ。ちゃんとすぐ返すの。」揺は怒ったように言った。
「じゃあ、僕にだって借りればいい。返すのはいつでも良いんだから。」
「あなたにだけは死んでも借りたくないの」
「どうして」
「どうしてもっ!」
「揺、素直になれよ。君らしくない」
「あなたこそ、あなたらしくない」
揺はそう言い捨てると彼を庭に残し、リビングに戻って行った。
一人残され頭を抱えるビョンホン。
彼は化粧室へと消えその後姿を揺は目で追った。



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